PDF版はこちら →China Info JPマイツ通信 2025年6月号
中国では年度前半は各種の申告・報告業務が集中します。既往ニューズレターで各種項目を解説済ですが、本稿では6月30日期限の年度業務のうち、特に外国籍従業員に関する個人所得税の確定申告を取り上げます[i]。
改正個人所得税法の施行後、税務部門は2019年度から2023年度まで年度ごとに確定申告の取扱いを定めていました。しかし、今回(2024年度)は既に申告実務の安定的な運用が確立されたとして、2025年2月に、個人所得税総合所得確定申告管理弁法[ii]が、恒久的な規定として公布・施行されました。
(同弁法の詳細は華南通信2025年5月号に解説しており)本稿では同弁法等を踏まえて、駐在員及び出張者に焦点を絞り、説明します。
1.駐在員の中国の個人所得税納税計算方式
確定申告の対象となる納税者(同弁法第6条、7条)
|
➤事前納付額が納付すべき税額を超えており、還付を申請する必要がある納税者
➤事前納付額が納付すべき税額を下回り、追加納税額が400元を超える納税者
➤所得項目の適用の誤り、源泉徴収義務者の源泉徴収未履行、源泉徴収義務者不存在の総合所得の取得などの事情により、年度の総合所得が過少申告または未申告となっている納税者等
|
次に、中国の確定申告は居住者のみ認められますが[iii]、下記(1)、(2)の通り、非居住者と対比させつつ、その課税範囲、納税計算方法等を説明します。
- (1)居住者
- 外国籍は原則、個人所得税法上の“住所”を有しないため、居住日数が満183日以上か未満かで、居住者/非居住者の判定をします[iv]。課税範囲は、居住者となった当初の6年間は中国国外所得且つ国外払いに対しては、免税措置(所謂“6年ルール”と呼ばれる優遇措置)[v]が享受できます。
- 次に、居住者は下記式の通り、毎月、暦年の開始月から納税月までの課税所得の累計額を基に算出した税額から、前月までの累計納税額を控除した金額が、当月の要納税額、すなわち、“毎月、年末調整を行い納税”に類する形となります。更に、外国籍は、(例えば家賃、子女教育費、大病控除等の)専項附加控除か、免税措置かのいずれかを選択しますが、通常は大幅に有利な後者を選択する為、例外的な状況(期中での帰任等に伴う、居住者⇔非居住者の変更や、“大湾区の還付政策”のような税制優遇策に基づく税額還付など)がない限り、通常、確定申告は不要です。
-
税額計算式(月次予定源泉徴収税額):=(累計予納源泉徴収課税所得額×税率-速算控除) -累計源泉徴収済税額
- 留意事項として、(今回の2024年度は対象外ですが)上記の“6年ルール”の期間中にタックスブレイクを実施していなければ、2025年度以降は、課税範囲が全世界所得となる為、もし日本に賃貸収入や譲渡所得等があればこれらも課税所得となり、規定上、翌年(2026年)以降の確定申告が求められます。
- (2)非居住者
- 上述の通り、中国の滞在日数が満183日未満の場合には非居住者として原則として以下の税額計算式により月次納税します。繰り返しになりますが、確定申告は行いません。
-
課税所得額=毎月収入額-基礎控除5000元税額=課税所得額×税率-速算控除額(税率と速算控除額は月次総合所得税率表のもの)※税額を会社負担する際のグロスアップ計算は、本計算式とは異なります。
留意点として、上記(1)にて、居住者の外国籍にも認容される、専項附加控除は適用対象外ですので、年度開始時点では居住者で申告していたものの、年度前半での帰任により非居住者のステータスとなった場合には、税務機関に報告し、非居住者として納付税額をあらためて計算、申告し、税額を追納します。
2.日本本社が留意すべき、その他の事項[vi]
- (1)出張者への課税
- 本社の出張者において、日中租税条約の短期滞在者免税要件に則り、もし以下の3要件のいずれか一つでも充足しない場合には、中国での納税義務が生じます。
-
【日中租税条約第15条2項:短期滞在者免税】①報酬の受領者が当該年を通じて合計183日を超えない期間当該他方の締結国に滞在すること②報酬が当該他方の締約国の居住者でない雇用者又はこれに代わる者から支払われるものであること③報酬が雇用者の当該他方の締約国内に有する恒久的施設によって負担されるものでないこと
この場合、日中双方での二重課税となりますが、日本の居住者として確定申告し外国税額控除の適用範囲において還付を受けることが可能と考えます[vii]。一方、中国の滞在日数次第では、中国側でも居住者(双方居住者)となり税務申告が求められますが、状況により、確定申告にて対応するケースも生じ得ます。但し、確定申告時の外国税額控除の適用は実務的なハードルが高いと考えます。
- (2)退職金課税
- 昨今、中国駐在時に定年を迎えてもそのまま中国駐在を継続する駐在員も見受けられます。この場合、日本本社からの退職金受領に対して、中国の居住者/日本の非居住者として二重課税が発生します。例えば、中国居住6年以内の期間中に退職を迎え、当該期間部分(中国国内源泉所得)に対する退職金課税が発生した場合でも地域的な差異はあるものの、通常、多額の納税を要します。この際、理論上は、当該駐在者は中国の居住者ですので、中国の確定申告により、日本での二重課税分の税額控除の適用が可能ですが、外国籍人員の場合、繰り返しになりますが、実務的なハードルが高く、少なくともマイツグループが知る限り、当該事例での適用を受けた事例を認識していません。この為、定年を迎える駐在員に対しては、交代人員の可否、要否も含めて、早めの対応とタックスプランニングが必要となります。
3.留意事項
中国の納税申告漏れ/過少申告に対する罰則は厳しく、延滞金0.05%/日(年率18.25%)、罰金は50%~5倍、期間も最長で無期限となり、注意を要します。従い、適切な課税所得の計算と、必要に応じて確定申告の実施等、適切な対応が望まれます。
[i] 年度業務に関し過年度及び華南通信も含む本年のマイツグループの各種ニューズレターを参照のこと。
[ii] 原文URL:个人所得税综合所得汇算清缴管理办法.pdf
[iii] 個人所得税法(第11条)を参照のこと。原文URL:中华人民共和国个人所得税法_国家税务总局。
[iv] 個人所得税法(第1条)を参照のこと。また、ここでいう“住所”とは習慣的居住性の有無を指す。従い、駐在期間の終了に伴い帰任する、外国籍駐在員は“住所無し”と判定される。詳細は同実施条例(第2条)を参照のこと。
URL:中华人民共和国个人所得税法实施条例_国家税务总局
[v] 6年ルールの詳細は、JPマイツ通信2024年5月号を参照のこと。
[vi] 出張者(SV役務)や退職金課税の詳細は、JPマイツ通信(2021年7月号、2023年8月号)等を参照のこと。
[vii] 但し、日中租税条約では理論上免税扱いにもかかわらず、同租税条約に合致しない中国税務当局による当該税額納付が外国税額控除の対象となるか否かは、検討が必要。詳細は右記URLの通り。URL:No.1240 居住者に係る外国税額控除|国税庁