【2025年4月】年度監査の概要と留意事項~監査報告書の存分な活用により現地法人の状況把握や不正の抑制等に有効ながら、現地会計事務所のレベル感に要注意~

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現在、中国では2024年度の会計期間(1月1日~12月31日)が終了し、現地法人では、企業所得税や個人所得税の確定申告期限に向けた準備を進めておられると思います[i]。また会計では監査報告書を既に受領された現地法人も多いかと思います。一方で、子会社管理の観点から、日本本社にとって監査報告書は重要なツールにもかかわらず、必ずしも十分には活用されていないと感じることも有ります。
更に、日本本社が上場企業等であれば、「監査基準委員会報告書600(グループ監査における特別な考慮事項)」の改正施行により、本社の監査人(以下、“日本監査法人”)は、従来以上に中国の監査人(以下“現地会計事務所”)が適正な監査をしているかの品質管理を、直接的に確認・検証する必要性が生じており、結果として2025年期の年度監査では、現地会計事務所の変更が要請される可能性もあり得ます[ii]
従い、本稿では、年度監査の概要と監査報告書のチェックポイント、及び監査に関わる留意事項を説明します。

 

1.年度監査の概要

年度監査を経て、企業所得税の確定申告や日本本社の要求に合わせ、監査報告書は3月~4月の発行が通例です。すなわち、実務的には年度監査を経て確定した会計上の利益から益金・損金を調整して税務上の課税所得を算出、申告し、また配当送金時にも配当可能利益額の確認に金融機関より提示が求められます。

上海マイツ会計師事務所のように日本の監査法人と同手順の会計監査を実施する場合、以下等の監査手続きを実施しますが、現地会計事務所では①、④の未実施、また②や③すら実施されない例も見受けます。

しかし、予備監査では、企業ごとに内部統制の有効性(適切な管理がされているかの度合い)が異なる為、各社の状況を把握し、監査人は監査の実施範囲や実施時期等を含む監査計画を立てます。また監査計画に則り、期末等での資産の実査・立会や、残高確認状の回収(監査人が直接対象となる販売先や仕入先等に売掛債権や仕入債務等を照会して残高確認)等は、過大・架空計上や過少・計上漏れ等を検証する重要な監査手続きであり、現地会計事務所がこれらを実施しない場合、当該監査の品質自体に留意する必要があります。

 

2.監査報告書のチェックポイント

もし適正な監査手続きに則り発行された監査報告書であれば、当該年度の財務状況の把握に大変有用です。以下に、(1)監査報告書の内容と(2)現地会計事務所の監査品質に対するチェック事項を列挙します。

  1. (1)監査報告書の内容に対する、主なチェック事項
    1. ➤監査人による意見表明:適正意見か否か
    2. 通常は、適正意見(“公允反映了”)が表明されます。それ以外(限定意見、不適正意見、意見差控)であれば、重要事項の一部/全部が適正に反映されていないか、監査人が意見表明しうる関連資料の提示が無かったことを意味し、いずれにせよ現地法人の財務報告体制に問題があります。
    3. ➤監査報告書の財務数値と、現地法人の期末時点の試算表との差異があるか
    4. 監査を通じて、財務数値の過大・過少計上や、期ズレ(当該年度に計上するべき売上・経費を、別の年度に計上)の指摘・修正があります。例えば、単に会計期間を跨いだ修正か、押し込み販売等の会計不正的なものか等、誤謬の原因分析と把握に努め、再発防止策を講じる必要性があり得ます。
    5. ➤監査報告書の注記の確認、検証
    6. 監査報告書の注記には、主要科目の内訳、売掛債権やその他未収入金等の帳簿年齢、関連者取引の明細等々の情報を含みます。更に、帳簿年齢により滞留の有無を始め各項目の詳細確認を進め、もし不明点があれば、財務担当者又は現地会計事務所に照会されるよう、お勧めします。
    7. ➤貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)及びキャッシュフロー計算書等を用いた財務分析
    8. もし可能であれば、不正の発見の一助として、複数年度の監査報告書を用いて債権や在庫の回転期間等の比較や、キャッシュフロー計算書を確認して異常値の有無を確認することも有用です。
    9. ➤監査報告書の財務諸表が、会計基準に則って監査されているか
    10. 現在、現地法人で多見される企業会計準則(IFRSに近似)を会計基準として採用している場合、例えば、B/S上に、貸倒引当金や棚卸資産評価引当金等が計上され、また日本に先がけて新リース会計基準が適用されている為、賃貸オフィスやレンタル工場、レンタル倉庫は(短期間や少額資産などの例外処理に該当しなければ)使用権資産(固定資産)やリース債務が計上されるはずです[iii]。もし当該項目が見当たらない場合、現地会計事務所への確認が必要と考えます。
  2. (2)現地会計事務所の監査品質に対するチェック事項
    1. ➤適正な監査手順が実施されているか?
      代表例として、予備監査や本監査(期末の実査・立会)は、監査人の現地法人への往査(現地調査)が必須となりますので、監査人が一度も現地法人を往査しない状況には、違和感があります。
    2. ➤監査報告書の発行時期
    3. 例えば、もし事前照会や打ち合わせもなく1月に監査報告書が発行された場合、現地会計事務所は残高確認状の回収を適切に行わず、試算表の検証程度に止めて監査報告書を発行した可能性が、逆に5月時点に監査報告書が未発行であれば決算期末の検証が厳格では無い可能性もあります。
    4. ➤あるべき勘定科目が無いにもかかわらず、適正意見が発行されていないか?
    5. 上記の通り、企業会計準則の場合、もし貸借対照表上に、貸倒引当金等や新リース会計基準に則り計上、若しくは修正されていなければ、やはり、監査品質の確認が必要と考えます。
    6. ➤良好なコミュニケーションが取れているか?
    7. 監査期間中や監査報告書の内容を現地会計事務所に照会しても適切な回答が無い、また、日本監査法人が適切なコミュニケーションが取れない等の状況は、要注意です。
    8. ➤会計事務所の監査レベルを直接確認する方法
    9. 中国では多くの地域で、現地の公認会計士協会が会計事務所のランク等を公表しています(下表URLリンクを参照)。例えば、上海公認会計士協会は同市352の会計事務所名をランクごとに、A(66所)、B(147所)、C(119所)、D(20所)と分類して公開しています。
    10. 【主要地区:ランク・分類表示】

 

3.まとめ

繰り返しになりますが、監査報告書は配当送金時に提示が必須なだけではなく、外部の会計士による監査の結果が纏められた財務報告書です。この為、日本本社が当該報告書を存分に活用すれば、現地法人の状況把握や、更に不正の兆候や発見を含めた現地法人の内部統制にも有効と考えます。

但し、日本監査法人とは異なり、現地会計事務所の品質には大きな差異があり、その監査体制や品質自体に問題のあるケースも見受けられます。上述のチェックポイントにより懸念が生じるならば、改めて、監査人の品質の確認をお勧めします。

 


 


[i] 年度報告業務の詳細は、例年3~5月のマイツグループ・ニューズレターを参照のこと。

URL:ニューズレター アーカイブ| 株式会社マイツ

[ii] 詳細は【JPマイツ通信】2024年10月号を参照のこと。

[iii] 詳細は【上海通信】2021年11月号、【2022年4月】大連通信、【2022年1月】JPマイツ通信等を参照のこと。