2016.03.01
営業企画部 片瀬陽平
今回の国際税務通信では、国税不服審判所裁決要旨検索システムより、平成24年9月に実際にあった国際税務関連の裁決を基に話をさせて頂こうと思います。この国税不服審判所のWEBサイト(http://www.kfs.go.jp/service/)は過去の裁決を自由に閲覧することができ、非常に興味深いものとなっていますので、ご興味がある方は是非一度ご覧いただければと思います(国際税務に関する事例も豊富)。
その中で、本日は役員に対する海外渡航費・滞在費に関する基本的な考え方を裁決に基づいて解説しますので、是非最後までお付き合いいただければと思います。
【裁決内容】
○ 請求人は、取締役に対して支給した海外出張費は、当該取締役が請求人のための経営学及び国際化に対応するための英語を勉強するために職務として海外出張し、請求人の旅費規程に基づいて支給したものであり、請求人の業務に関連する
費用であるから、当該取締役に対する役員給与には該当しない旨主張する。しかしながら、当該取締役の当審判所に対する答述内容等からは、取締役個人の動機に基づく留学であったと認められなくもなく、当該取締役に対する海外出張費名
目の旅費計上額は、渡航の目的、費用の支給額及び日数の決定基準からみて、加えて、当該取締役の渡航先での行動及びこれらに係る運賃、宿泊費、滞在費などの費用等の内容が全く不明であることからも、請求人の業務遂行に関連性があるとは認められないというべきである。したがって、請求人が当該取締役に支給した当該海外出張費計上額は、取締役が請求人との委任契約に基づくその地位により請求人から給付を受けた以外に合理的な理由は認められないから、請求人から
当該取締役に支給された経済的利益に該当し、同人に対する役員給与に該当すると認められる。(平24. 9. 3 東裁(法・諸)平24-46)
この中でポイントとなる個所を抜き出してみようと思います。
①英語を勉強するために職務として海外出張
②旅費規程に基づき支給
③業務に関連する費用
④個人の動機に基づく留学
⑤行動及び費用等の内容が全く不明
⑥取締役の地位により給付
まず、勉強のための支出は所得税法上どのような取扱いになるかを以下の所得税基本通達を基に確認します。
9-15 使用者が自己の業務遂行上の必要に基づき、役員又は使用人に当該役員又は使用人としての職務に直接必要な技術若しくは知識を習得させ、又は免許若しくは資格を取得させるための研修会、講習会等の出席費用又は大学等における
聴講費用に充てるものとして支給する金品については、これらの費用として適正なものに限り、課税しなくて差し支えない。(平元直所3-14、直法6-9、直資3-8改正)
つまり勉強のために海外出張したとしてもそれが仕事に直接必要であると認められる場合には、その金額は課税しなくてもよいことになります。旅費規程に定められていれば更に客観性が増すことになります。
ただし、上記の説明にもあるように「仕事に直接必要」と、業務関連性が求められることになります。業務のための留学費用であったのか、それとも個人の動機に基づく留学費用であったのか、業務のためと主張できるのであれば給与認定される心配はありませんが、個人の動機に基づく留学費用であれば役員給与に該当し、課税されます。
また、法人税法上、旅費交通費は損金算入可能ですが、役員給与は損金に算入することができません。
上記の裁決では、行動及び費用等の内容が全く不明であったために、業務のためと主張できる可能性は低く、結果として取締役の地位により給付(役員給与)とされてしまいました。
上記裁決の記載部では見えていない背景が「今後現地法人を設立し、当該役員が現地の責任者を兼務することが決まっているために、役員は現地視察を含め語学を学びに行った」であれば、業務関連性を主張できる可能性は格段に上がるものと思われます。
業務関連性の観点からは給与認定を、対価性の有無の観点からは寄附金認定を受ける可能性があり、国際税務関連で当局から指摘されるのはこの2つの観点からが圧倒的に多いので、皆様ご注意いただければと思います。