【2025年12月】AIに代替されない「ヒューマンスキル」の再定義

 

AIに代替されない「ヒューマンスキル」の再定義

 

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皆様の会社でも生成AIの利用が進み始めていることと思います。セキュリティの確保や、中国ならではの「データ越境」問題などがあるため、日本本社で法人契約されているGeminiやChatGPTなどを中国でそのまま使うことができないのが辛いところですが、中国の法令に準拠したシステムも日々進化しています。もしまだ本格導入まではできていない、という企業様は、是非一度ご相談ください。

さて、今回は「AI導入後」に避けては通れなくなる「人間は何をするのか?」という、多くの企業が直面するテーマを取り上げます。「もう人間の社員は要らなくなる」といった極端な意見も聞かれますが、ビジネスの現場においては、当面は人間不在では成立しない状態が続くはずです。

確かに、AIは「業務知識の量」や「アウトプットの速さ・正確性」といった、従来の「ハードスキル」において人間を凌駕しつつあります。しかし、「創造性」「共感力」「複雑な問題解決能力」といった領域は、AIが真に代替するにはまだ時間がかかります。むしろ、AI時代の人間の仕事とは、「AIが嘘をついていないか」「AIの出力はそのまま使えるか」を判断し、それをどうビジネス価値に繋げるか、という部分にシフトしていきます。つまり、「AIが出した答え」そのものではなく、「AIに何をさせ、その結果をどう使ったか」というプロセスこそが、人間たる社員の重要な付加価値となります。

そうなると、人事としては、これまでの「人材評価方法」を見直さざるを得ません。ハードスキル偏重の評価基準では、AIを「使いこなす」人材の価値を正しく測定することが難しくなっているからです。例えば以下のような「人間の介在価値」に焦点を当てた評価軸を導入、または定義の見直しをすることが考えられます。

 

1.課題設定とAI活用(AIを「使いこなす」力、「問いの質」を評価)

・複雑な状況から本質的な課題を見抜き、AIに的確な指示(プロンプト)を与えられたか。
・AIの出力を無批判に受け入れず、複数のAIの回答を比較検討し、より深い洞察を導き出せたか。
・AIを活用して、従来は不可能だった新しい業務プロセスや企画を提案できたか。

2.協働と共感(人と「繋ぎ、動かす」力、対人スキルや組織運営能力)

・AIが提示した合理的な判断に対し、顧客や部下の感情に寄り添った「人間的な」調整や説明を行えたか。
・チーム内の微妙な摩擦などを察知し、「暗黙知」や「組織の空気」を読んで解決に導けたか。

3.倫理観と判断(リスクを「見抜き、止める」力、AIのハルシネーションを見抜けるか)

・AIの回答に含まれる偏見、誤情報、または法的・倫理的なリスク(著作権、データ越境リスクなど)をいち早く見抜き、ビジネス上の損失を未然に防いだか。
・効率やスピード優先のAI出力に対し、企業の長期的ビジョンやコンプライアンスの観点から判断を是正できたか。

ほかにも、AI時代に重要性が増すヒューマンスキルはたくさんありますね。ちょっと考えただけでも、

好奇心と学習意欲 ストーリーテリング 曖昧さへの耐性 レジリエンス ビジョン構想力

などを検討しておきたいです。特に変化の速い中国市場においては、AIによる効率化は凄まじい勢いで進むでしょう。その中で人間が担うべきは、効率化されたプロセスの上で「新たな価値を創造する」「組織の文化を醸成する」「不確実性の高い交渉をまとめる」といった、AIには(まだ)任せられない高度なヒューマンスキルです。

人事部門としては、AI時代に自社が従業員に何を真に求めるのかを明確に定義し直し、それを新しい評価制度や研修体系に組み込んでいく準備が、今まさに求められています。