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PDF版はこちら →人事労務通信 2025年11月号
2008年に中国労働契約法が施行されて以来、上海の裁判所は他地域と異なり「連続2回の有期労働契約を締結した後も、無期労働契約を締結するか否かは、当事者双方の合意に基づくべきである」との見解を維持してきました。要するに、当事者間で合意が成立している限り、回数に関わらず有期労働契約を更新することができ、契約期間満了により終了する場合、会社は法定の経済補償金(N)を支払えば足りるとする判決が続いていたことを意味します。しかし、2025 年からこの運用に変更が生じ
る可能性があります。
2024 年、中国最高裁判所は各下級裁判所に対し、「労働争議典型判例」などを通じて審判指導意見を発表し、「労働者が無期労働契約を締結する権利を保障しなければならない」、「企業側には無期労働契約の締結を拒否する選択権はない」との見解を明確にしました。この最高裁判所の意見を受け、2025年から上海市の一部の裁判所(閔行区など)では、「2回目の有期労働契約期間満了後、会社が一方的に契約を終了させる行為は違法である」、「労働者側に『労働契約法』第39条、第40条第1 項及び第2 項に規定される解雇事由がなく、かつ労働者から契約更新の申し出があった場合、会社は無期労働契約を締結しなければならない。これに応じない場合、会社は違法解雇の賠償金(2N)の支払い義務が生じる。」といった判決が示されたケースが生じています。
現時点では、この見解は上海市全体で統一されたものではありませんが、近い将来に統一される可能性が推測されます。新旧の見解の違いは、以下の表の通りです。
| 項目 | 従来の見解 | 新しい見解 | 
| 会社が 2 回目の有期労働契約を満了により終了 | 合法終了 法定経済補償金(N)を支払いが必要  | 
違法終了 経済弁償金(2N)の支払いが必要  | 
| 従業員が無期労働契約の締結を要求 | 双方の合意が必要 会社が同意しない場合は、契約を終了できる  | 
従業員の申し出により締結必須 会社は無期労働契約を締結しなければならない  | 
この裁判所の見解の変化は、上海に拠点を置く企業にとって、人事労務管理に大きな影響を与えるものです。企業としては、以下のような対策を検討することが考えられます。
● 初回労働契約期間の見直し
2 回目の有期労働契約を満了により終了させることが難しくなるため、初回契約の期間を、3 年など比較的長めに設定する方法があります。
● 懲戒処分及び日常労務管理の強化
日系企業には安易に従業員を解雇する慣習はありませんが、その分、勤務態度や業績が振るわない従業員については、契約満了による終了に依存しがちです。このため、「就業規則」において懲戒対象となる行為を明確に規定し、問題のある従業員に対し適切かつ早期に対処できる体制を整備することが重要です。
●人事評価および賞与・給与調整制度の合理化
業績に連動した評価制度や、成果に応じた変動型の賞与・給与制度を導入することで、優秀な人材の意欲を高め、一方で業績の低い従業員の自主的な退職を促す環境づくりが有効です。
							
