【2025年8月】従業員のポジションを強制的に変更できるか?!

 

従業員のポジションを強制的に変更できるか?!

 

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近年、グローバル経済環境の急激な変化に伴い、日系企業では組織改革を行うケースが増えています。中国現地法人では、B to C事業やEコマース分野へ新規参入するために新組織を設置したり、異なる分野の人材採用を行ったりする企業もあれば、組織縮小や人員整理を行う企業も少なくありません。組織再編に伴う人員整理の方法としては、主に以下の2つが考えられます。

 

●配置転換(組織・職位の変更)

日系企業には、可能な限り従業員の雇用を維持しようとする傾向があります。このため、組織が解散したり職位が廃止されたりした場合でも、従業員を他の部署に異動させて別の業務を担当させるケースがよく見られます。

ただし、中国労働契約法では「従業員の所属部門・職務内容・給与などの労働条件は労働契約で定められており、変更には会社と従業員双方の書面による合意が必要」と規定されています。この規定を根拠に、従業員が配置転換を拒否したり、昇給を要求したりすることで、労務トラブルに発展する事例が少なくありません。

実際の裁判例では、以下のポイントを証明できれば、会社の配置転換指示が認められる可能性が高まります。

  1. 1.会社の経営上の必要性があるか
  2. 2.労働契約の重要な変更に当たるか
  3. 3.従業員にとって差別的・侮辱的な内容でないか
  4. 4.報酬や労働条件に重大な影響がないか
  5. 5.従業員が新しい職務を遂行できる能力があるか
  6. 6.勤務地変更などで不便が生じる場合、会社は適切な支援を提供しているか

 

●労働契約の解除

中国労働契約法第40条第3項では、「労働契約締結時の客観的状況に重大な変化が生じ、契約の履行が不能となった場合、協議しても合意に至らないときは、労働契約を解除できる」(法定解除)と定められています。従業員の所属部門が廃止される場合などがこれに該当し、この場合、会社は法定の経済補償金(N)を支払う必要があります。

ただし、会社が一方的に解除通知した場合、多くの従業員が労働仲裁を申請し、2Nの補償金を求めてきます。このため実務では、法定額を上回るN+2やN+3などの条件を提示し、従業員と合意の上で契約解除する(協議解除)方法がよく用いられています。

組織再編に伴う人員整理では、労務トラブルが発生しやすいのが実情です。しかし、組織改革は会社の中長期的な経営目標に直結する重要な事項であり、計画通りに推進することが望ましいと言えます。人員整理を円滑に進めるためには、改革前から余裕を持って、以下の準備を行うことが大切です。

  1. ・整理方法の明確化
  2. ・従業員への説明内容
  3. ・個別対応のシミュレーション

 

従業員の立場に立った事前準備が、トラブル防止の鍵となります。貴社で人員整理をご検討の際は、ぜひ弊社の専門担当までご相談ください。