「ジョブ型人事」で大丈夫ですか?
PDF版はこちら →人事労務通信 2024年12月号
今夏、帰国時に、本通信6月号でお話しした「自営型雇用」提唱者である同志社大学の太田肇教授にお会いしてきました。
教授が様々なところで発信しておられますし、著書「自営型で働く時代」の中で明確に言い切ってもおられますが、「ジョブ型人事はもう古い!」という話を改めてお聞きして参りました。 え?と思われた方もおられるかもしれません。古いも何も、最近やっと日本でもジョブ型にしなきゃって言われ始めたばっかりですよね?
人事に携わる皆さまならご承知かと思いますが、日本でバブル崩壊間もない90年代後半から2000年代に掛けて、外資コンサル会社が持ちこんだ「職務主義」が、従来の年功型「職能資格制度」にとって代わるかのように言われた時期があります。同時に「成果主義」も脚光を浴び、どちらかというと成果主義の失敗のほうが世間を騒がせたためにあまり目立たなかったのですが、「職務主義」もほぼ上手くいかずにひっそりと終了しています。当時、この後始末を各社でさせていただきましたが、それはそれは大変でした(汗)。
現在、「職務グレード制」などの呼称で何とか生き残っている界隈もありますが、これらが本来の職務主義とは根本から違うものになっている、という話はまたいずれかの機会にお話ししたいと思います。今回の本旨は、「ジョブ型」の問題点について、です。
昨今「ジョブ型」が、改めて脚光を浴びている背景には、
・旧来の「メンバーシップ型」では高度専門職が育たず、欧米企業に勝てない
・社員ひとりひとりの「強み」を活かし、自律的なキャリア形成を促したい |
などのほかに、世界最低水準と言われる日本企業、日系企業のエンゲージメントを劇的に向上させる可能性がある、と期待されているからではないでしょうか。私自身の上海の相談先企業様でも、「社員が言われたことだけしかしない、それもぎりぎり最低限で」とお嘆きの声は良く耳にします。中国でもそうなっているということは、日本人のエンゲージメントが低いのではなく、日系企業社員のエンゲージメントが低い、ということなのでしょう。
ところが、一方で社員の皆さまが非常に元気で、驚くほど提案もするし、言わなくても先回りして仕事をする体質になっている会社も現実にはあります。そうした企業様の共通項は、何なのでしょうか?ジョブ型なのでしょうか?
断言しますが、違います。むしろ従業員の要求に迎合し、ジョブ型(っぽい)運用をされている会社ほど、活力をなくしていっているというのが実態でしょう。ジョブ型人事には、下記のような特徴があります。
・職務記述書によって「職務の範囲」を明確に合意する→それ以外の仕事はしない(現場で要否判断できない)
・担当職務がなくなったら辞めてもらう→はずだが実際には解雇できず、職務転換(キャリアが変わってしまう)
・他社、他業種の同職種と同水準の報酬があたりまえ→社内水準で処遇が決まるので優秀層ほど辞めやすい |
そもそもジョブ型とは、産業革命によって大量生産が可能になった時代に生まれた働き方です。「考える」ことは資本家や経営者に任せ、労働者は与えられたジョブを最高水準でこなせばいい、という発想のもとに成立しました。これが今の世の中に適する考え方でないことは、ここで強調するまでもなく明らかなのではないでしょうか?
では、どうしたら良いのか?元気な会社では、「自営型(オーナシップ型)」あるいは「ミッション型」とでもいうべき働き方をしていることが太田教授の研究でも、いちコンサルである私の体感でもはっきりと示されています。皆様の企業でも是非、ご検討ください。