PDF版はこちら → 人事労務通信 2023年12月号
中国にある日系企業のほとんどが、日本に本社がある「子会社」です。昨今、グローバルにM&Aが活発に行われていることもあり、中国に限らず海外に子会社を持つ日本企業はどんどん増えています。
欧米の場合は少し事情も異なるのかもしれませんが、中国のように、かつて低賃金国としてメリットを享受できていた国では、いまこの親子関係によって、子会社の給与が上げられず、お困りの企業様が出てきているようです。ある企業では、「日本の親会社が、そもそも日本側で別の会社の子会社なので、その親会社の子会社である上海別法人の給与水準より必ず低くしなければいけない」というルールがあるそうで(ややこしい。。。)、親会社はメーカーなのですが、子会社はシステム会社なので、もう全然戦えないとのこと。実際、採用には大変苦労されていますし、業績もじりじりと落ちていっているようです。
かつて日本がアズNo1.などと言われていた時代であればともかく、すべての先進国はいわずもがな、新興国にさえその給与水準で後塵を拝するようになっている現在、海外子会社の給与が日本本社より「必ず」低くなければいけないという謎ルールを温存していては、人材獲得競争で勝てるはずがありません。
日本人が世界的に見れば破格の安い給与で、辞めずに働いてしまっていることが問題の根源なのでしょうが、それを言っても始まりません。せめて、海外では「親子関係なく、その国の、その業態の水準」で設定できるようにして欲しいと思います。
一方で、人件費が上がると経営がもたない、というところもあるのかもしれません。上述の親子縛り以前に、給与を上げるための原資が不足するようなら、生産性を向上させる取り組みを、何をおいても実施しなければいけないでしょう。向上できなければ、いずれ市場から「退場」せざるを得なくなります。
日本企業は社員間の待遇にあまり大きな差を付けず、職務の定義も緩やかで誰の仕事なのか決まっていないようなことでも協力し合って進めていくという特徴があります。これは良いことでもあるのですが、会社全体でのパフォーマンスが出なくなってくるような状況では、より大きな成果を生み出せる社員を厚遇し、体質を変えていく必要があります。私どもコンサルタントへの依頼でも「メリハリのある給与体系にしたい」と言われるケースは多くあります。
そしてこれを実現するためには、生産性の分子である「成果」の定義を明確にすることが前提となります。皆様の会社では、全てのポジションの社員に求める「成果」が定義できていますか?
営業職はともかく、開発、サービス、管理部門と、様々な職務において、何が「成果」なのか、その「成果」は、昨年よりも増えているのか?成果が増えていないのに、給与が上がれば、生産性は下がった、ということになります。大変残念なことに、非常に多くの日系企業において、「社員一人一人の成果が定義されていないし、可視化できていない」という状態にあるようです。その状態では、生産性を高めようと思っても、何から手を付けていいか分かりませんし、対策が奏功したかどうか計測することもできません。
中国で、日本親会社を超える給与を出せるよう、生産性を高め、また親会社を説得する材料とするためにも、是非、全社員の成果を定義、可視化し、これを高めていく取り組みに着手いただければと思います。