【2023年8月】労務外注が使えなくなる!??

 

 

 

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2012年の中国労働契約法の改定で、労務派遣に対する制限が追加され、多くの日系企業は労務派遣という人材活用方法を諦めましたが、外地従業員の所在地での社会保険の納付や、短期で大量の現場労働者を利用したりなど、企業経営の必要性に応じて、「労務外注」や「人事代理」など、人力資源会社に支援を依頼する日系企業は少なくありません。

しかし、人力資源会社が支援を提供する中、不正や詐欺被害が多発したため、政府は2023年6月29日に、「人力資源服務機構管理規定」を発表し、2023年8月1日から執行されます。新法規では、主に人力資源会社の資質審査や登記義務を定めていますが、規制行為や管理ルールも明確に定められています。その中で、日系企業にも影響が出ると思われるものは以下の通りです。

 

  1. 労務外注の活用が制限される

新法規第28条では、「②人力資源服務外注の名義で、実質的に労務派遣を実施し、労働者を他の会社に勤務させること」を明確に禁止した。労働契約法で、「人材派遣」を規制したため、多くの人力資源会社が、「労務外注」の名義で、労働者を会社で勤務させている。両者は非常に類似しているが、法律上では、労働者の日常業務管理責任の所在や締結される支援契約の性質などで区分されている。日系企業のほとんどは労働者を自社内で勤務させ、日常業務管理を自社で実施しているため、「労務外注」の名義で支援契約を結んでも、トラブルが発生する際、裁判所などに「人材派遣」として認定される可能性が高い。

新法規では、「労務外注」を禁止しているわけではない。「労務外注」の名義で支援契約を締結しても、実質労働者を派遣するだけで、日常業務管理や業務成果管理など、一切責任を持たない偽造派遣行為を禁止している。このため、日系企業は必要な外注業務や日常管理方法を整理し、適切な外注契約をまとめることが望ましい。

 

  1. 社会保険などの納付代理ができなくなる

新法規第17条では、「⑨証明資料の詐欺、偽造などの手段で、社会保険基金の支出、社会保険待遇をだまし取る行為」を禁止すると定められた。一部日系企業では、会社所在地以外の場所で人材を使用し、従業員の要求に従い、現地の社会保険に加入していることがある。中国の法律では、従業員は会社所在地の社会保険に加入することを定めているため、従業員所在地で社会保険を納付するためには、現地の人力資源会社に「人事代理」の名義で、納付代行支援を受けている。

2021年から、政府は北京と杭州をはじめ、社会保険の納付代行を取り締まり始めたが、今でも多くの企業で納付代行が実施されている。

納付代行をする際は、従業員所在地の人力資源会社(関連会社を含む)に入社している証明を作成する必要がある。

特に、労災が発生した場合、当該人力資源会社(関連会社を含む)が在籍証明などの資料を作成しなければならない。このため、新法規で定める証明資料の偽造に該当するため、人力資源会社の違法責任が発生すると同時に、人事資源会社が証明資料の発行を拒むと、会社と従業員間のトラブルに発展しやすくなる。以上のことから、すべての従業員が会社所在地の社会保険に加入、或いは従業員所在地に会社分公司を設立して分公司所在地の社会保険に加入することで安心できる。

 

  1. 海外に個人情報の送付が制限される

新法規第23条では、「人力資源会社が業務の必要で、中華人民共和国境内で収集、発生した個人情報、重要データを、境外に提供する場合、関連法律法規の規定に従わなければならない。」と定めた。近年、中国は情報セキュリティー、個人情報の管理を強化し、多くの関連法律法規が公布され、会社の対応が必要となっている。

会社は日常管理のため、労働者の個人情報を収集し、管理しなければなりませんが、その情報を海外に送信したり、海外のサーバーに保管すると、個人情報の越境に該当するため、情報収集の同意獲得や個人情報越境標準契約の締結など、各種手続きが必要となる。