【2023年7月】従業員の過剰なトイレ休憩を理由とする解雇は有効か?

 

 

 

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1. トイレから出てこない従業員

中国に限らず日本でも頻繁にトイレに行って仕事をしない従業員がおります。当然、トイレにカメラを付けることはできませんので、何をしているのか分かりませんが、一日に何時間もトイレに籠もっている場合、生理現象とは言えず、無断離席と扱い解雇も検討しなければなりません。

 

2. 事例

王氏は2006年4月にS公司に入社し、2013年4月19日に両者は無期限雇用契約を締結しました。

2014年6月1日、会社は特別なタスクルームを設置し、王氏をこのタスクルームに異動させました。このタスクルームには王氏が1名常駐し、総経理が直接管理していました。

 

S社の就業規則は、「会社概要」、「従業員の雇用に関する規則」、「追加規則」の3つの部分から構成されていました。 王氏は、署名することで就業規則第3版を受領したことを認め、読んだことを表明しました。

2014年12月22日、王氏は病院で痔の手術を受け、2015年1月中旬に傷は治りましたが、王氏は痛みを感じていると述べていました。

 

2015年7月以降、王は1日3時間から6時間、トイレで過ごしていました。 2015年9月7日から17日まで(9月13日を除く)、王は1日に2~3回、合計22回トイレに滞在し、1日の滞在時間は3時間50分、4時間28分、4時間18分、2時間32分、4時間35分、4時間16分、4時間29分、4時間と4時間 01分、5時間29分、5時間22分となりました(記録するS社の労力も大変だったと思います)。

 

2015年9月22日、S社は、王氏がトイレに長時間滞在していた問題について王氏と連絡を取り、連絡の過程を記録した書面を作成しました。 会社は、会社の労働組合の書面による同意を得て、同日、「懲罰としての解雇予告」を行い、「就業規則」第二部「就業関係規則」第79条第1項第3号「遅刻、早退、1ヶ月以内に許可なく個人的な理由で仕事を離れること」に基づき、「懲罰としての解雇予告」を行い、 S社は、2015年9月23日、就業規則第79条第1項第3号の規定に基づき、王氏との雇用関係を終了することを決定しました。

 

2015年10月末、王氏は、両者間の有期雇用契約の継続と雇用契約上の地位の回復を求める仲裁を申し立てました。仲裁委員会は審理した結果、解雇は違法であると認定しました。会社はこれを不服として裁判所に提訴しました。

 

3. 判決内容

一審判決(解雇有効 二審判決・再審も同趣旨)

1日の勤務時間が8時間であるところ、王がトイレに行ったのは、1日の大半を占めており、トイレの通常の利用範囲外であり、会社の解雇は合法であると判断しました。

 

・就業規則45条2項の規定に加えて、44条3項が “一定期間内に業務以外の理由で勤務していない従業員は、職務を離れたものとみなす “と定めていて、また第45条第1項では、”従業員は、勤務時間中は業務に専念しなければならず、原則として、外出や会議等の個人的な理由による退勤は許されない “と規定されている。

 

・就業規則には、私的理由による退社について非常に明確に記載されている。トイレに行く行為が私的欠勤の範囲に入るかどうかについては、通常は私的欠勤の範囲に入らないというのが常識的な考え方である。

 

しかし、トイレに長時間滞在する行為が私的欠勤に該当するかどうかは、分析する必要がある。

 

・王氏は痔の手術とトイレでの長期滞在との間に必要な関連性を示す証拠を提出せず、王氏が提出したメール、休暇カード、テキストメッセージ、眼科病院からの医療情報などは、トイレでの長期滞在と会社の異常行動との間に因果関係があることを証明するものではない。 また、休暇カードや眼科病院の医療記録なども、トイレでの長期滞在との因果関係を証明しているものではない。

 

結論として、裁判所は、会社が王との雇用関係を終了させた行為は合法的であり、有効であると判断しました。

 

4. 実務上の留意点

トイレに行った回数と滞在時刻を詳細に記録する必要があります。後に否認に転じる可能性があるので、トイレに行った回数と滞在時刻は本人に認めさせる必要があります。

より丁寧に行うのであれば病院の診断書、カルテを提出してもらい、医学的に必要な離席とは言えないとして、事前に警告などを行うべきかと思います。

ここまでの事例は珍しいですが、やる気を失った従業員は離席が多くなります。あまりにも酷い場合は懲戒処分や警告を行うべきかと思います。

 

案号:(2016)津民申1636号(当事者仮名)