【2023年6月】生成系AIの登場で変わる人事戦略

 

 

 

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昨年11月に公開されたChatGPTは皆さんももう触ってみておられることと思います。このあまりにも自然な文章のレベルに世界中が驚き、米国のみならず中国でも、百度、アリババ、センスタイム、360、JD、テンセント等々、次々と同様のサービス立ち上げの発表がされています(本稿執筆時点5/11現在)。

一方で、AIが嘘をついたり、虚偽情報を流布したりなど、決して小さくないリスクもあるということで、開発や利用に制限を掛けるべきであるという論者も少なくない中、中国政府は、生成系AIに対する規制を行うことをいち早く発表し、年内にこれを発効する計画を進めています。

このことにより、筆者は中国製の生成系AI(ChatGPTのような大規模言語モデルの対話AI)は、西側より速く進化する可能性があると感じました。日米欧でも同様の議論は始まっていますが、恐らくコンセンサスが取れるまでに時間を要するでしょうし、何らかのエラーが出ればサービス停止なども起こると思われます。その間に中国企業は、様々な規制や制約に対応できるコントローラブルなAIを進化させていくように思われます。

1~数年後には、複数の生成系AIが本当の意味で実用レベルになり、企業内サーバーでの運用や、エキスパートシステム他のプログラムとの連携も進み、「かなりの水準の仕事をしてくれるAI」が現実化すると予想しています(一部はもう実現し始めていますね)。となると、どうしても「生身」が必要な仕事以外の領域では、アシスタントワーカー(AIの下働き)と、トップクラスの高い見識を持った各分野のリーダーがいれば、現在の企業内にあるほとんどの業務は成立してしまうようになるのかもしれません。

さて、その時、企業人事はどう変わるのでしょうか?HR業務がスマート化されるというような話は当然として、企業内教育や、評価のあり方なども変わっていくと想像されます。しかし、最も大きく変わるのは「どのような人材が、経済社会において価値を持ち続けられるのか」という点です。これは「採用戦略」を劇的に変えます。例えば、営業部門や技術部門、間接部門などでこれまで必要とされていた、

・特定の専門知識や経験を持つ「技能系人材」

・コミュニケーションの取れる「緩衝系、営業系人材」

・自己管理、組織管理、プロジェクト管理などのできる「管理系人材」

などがあまり必要とされなくなるかもしれません。もちろん飛び抜けてできる人材は引き続き必要でしょうが、まあまあ合格点レベルでできるよねというレベルや、言われたことはやります、というような人材はAIに代替されてしまうように思われます。代わりに、

・目的と目指すべき成果の設定ができる

・AI含む新しいテクノロジーを上手く使って業務設計し、成果を出せる

・情熱をもって各分野の高度人材を巻き込むことができる

などの人材がこれまで以上に求められるようになるように感じます。誤解を恐れずに、やや乱暴に言ってしまえば、多くの企業で「3年目~10年目くらいの(現状の)中堅社員が要らなくなる」「業務管理、間接業務を行うマネジャーや担当者が要らなくなる」という未来が想像できてしまいます。

要らなくなった人材に何をしてもらうかという問題は別途考えるテーマですが、キャリア形成において2年目レベルから11年レベルにジャンプすることは困難ですから、採用は2極化せざるを得ません。便宜上2年目という言い方をしましたが、新卒でも上記の求められる人材は当然いるはずです。もちろんその逆も。

今月来月に起こる変化ではないとしても、数年後にもしそういう時代が来てしまったら、準備をしていなかった会社が、企業間競争に勝てるとは思えません。人事戦略の見直しに是非、着手いただきたいと思います。