【2020年7月】給与情報を漏らした給与担当者を解雇できるか

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1 給与情報の漏洩について

中国では日系企業においても内資企業においても、「従業員の賃金情報を取り扱う者は正当な理由が無い限り、この情報を漏らしてはならない」との規定を置くことがあります。

給与担当者が、従業員の賃金情報を理由なく他の従業員に漏らしてしまうことがよくあり、その事が原因で紛糾することが多いためです。私は日本でこの種類の規定を見たことが無く、最初この規定を見た時に驚きました。

以下では、給与情報を漏らした給与担当者を解雇した珍しい事例をご紹介致します。

2 事例

蘇さんは、20107月に天津のある会社に入社し、給与管理を担当しました。

会社の就業規則には「従業員個人の給与は社内機密であり、給与管理者は守秘義務を負う。何人に対しても、他人の給与を話したり漏らしたりしてはならない」と定めてありました。

蘇さんは、会社の規則制度を閲読し、その内容を理解し機密情報を漏洩しない旨の書面にサインをしていました。

会社は、2017921日、蘇さんを解雇しました。解雇理由は蘇さんの規則制度の重大違反であり、蘇さんが個人給与や部門給与を漏らしたことを具体的な理由としていました。

3 裁判所の判断

一審裁判所は「給与は使用者の生産経営に影響を与える絶対的な秘密ではなく、商業秘密と知的財産権に関連する秘密事項でもない、給与担当者が給与を他の従業員に話したことは規則制度の重大な違反とまでは言えず解雇は違法無効である」と判断しました。

二審裁判所も「給与情報の漏洩は確かに会社の規則制度に違反する行為であるが、労働契約法も使用者が労働関係の一方的な解雇権を行使することを限定しており、解雇が有効であるためには規則制度の重大な違反であると言える必要がある。本件では、会社が主張している蘇の給与情報漏洩の範囲、程度から見ると、蘇の行為は会社の規則制度に重大な違反をしたとはいえず、解雇は無効である」と判断しました。

4 就業規則の内容がそのまま通用するとは限らない

日系企業の就業規則にも様々な規定がありますが、上記判決にもある通り、解雇が有効であるためには規則制度の「重大な」違反であることが必要です。就業規則に会社として禁止をしたいことを記載するのは重要で一定の効果はありますが、実際に違反=解雇としてよいかは慎重な検討が必要になります。