今回は、話題の「AI」を取り上げてみたいと思います。
近年、AI技術が急成長しており、一部の領域ではすでに人間の能力を超えてきています。このスピードで発展し続ければ数年内には人間の仕事の大部分を奪っていき、多くの業種で完全な自動化が実現され、人間の作業が要らなくなると言われています。さらに、HRの仕事がAIに代替されやすいトップ10に入るという分析もありました。
人事管理にAIを導入することは、本来非常に望ましいことだと考えます。従業員の好み、能力、習慣などは千差万別ですので、一本化された会社の人事管理体系では個々人を配慮した人員配置や業務担当がなかなか実現できません。どうしても会社優先となり、個人の要素が後回しにされがちです。AIを導入することで、個人の要素をより多く考慮し、会社業務の必要性と両立できるポジション配置や業務担当が可能になります。また、人事評価の面でも、評価者の都合を考慮せず細かく評価視点を設計でき、且つ従業員の毎日の業務の行動や結果をエビデンスとして記録できるので、評価の甘辛のブレや評価ミスを完全に回避し、確実な根拠のある評価を実現できます。実際、日本では人事管理にAIを導入する会社が現れ始めています。
しかし、最先端技術の導入を好む中国で、人事管理などの企業経営管理分野にAIを導入したという会社はまだまだ聞きません。それには、以下のような理由を推測できます。
まず、中国企業は経営管理の経験の蓄積がまだ不十分です。中国では「会社」そのものの歴史がわずか30年ほどしかありません。この間、多くの会社は収益の向上や規模の拡大に専念し、論理的な経営が重要課題として挙げられることはありませんでした。経営管理が社長や管理者の独断に委ねられ、経営会議の実施や議事録の作成等の合議による経営が行われておらず、会社の成功・失敗の経験が十分蓄積されてこなかったのです。人事管理の分野では、会社の統一的な人事理念・方針の徹底が不十分で、各管理者は個人の尺度で人事評価の結果を判断し、会社の理想とする人財の姿についても統一されていません。最近になり、正しい手法による経営が重要視され始めましたが、全体の状況がすぐに改善できるものではありません。いびつな状態をAIに学習させても正しい結論に結びつかないため、現状では思考ロジックが明確に見えないAIに会社経営の権利を安心して委ねられません。
また、中国人従業員は厳しいルールで管理されることを、強く拒む傾向があります。人事評価を支援する会社で従業員から最も聞かれる言葉は「客観的、具体的、定量的」ですが、いざ会社が従業員の行動などを記録すると、「閻魔帳がつけられた」や「管理が厳しすぎる」といった文句を言われることが多いです。人事管理にAIを導入した場合、日々の業務活動やその結果など、理由を問わず全てデータ化されるため、従業員の不満が一層高まると予想されます。
人事管理など会社の経営管理へのAI導入を阻止する要因はたくさんあります。ただし、そのほとんどは技術面の問題ではなく、現時点での経営管理の現状と会社が理想とする姿に大きなギャップがあるからだと考えられます。10数年後には中国でもAIの時代が必ず到来します。その時になって他社の事例を参考にしても、自分の会社を成功させられるAIを構築できません。今のうちから論理的な経営管理を実践し、自社の成功に結び付く指標の洗い出しをすることが必要だと考えます。