前回のマイツ人事労務通信では、残業代の計算基数に関する考え方として、現行法では、残業代を計算する際、定期的、定額的に支給される交通手当、食事手当、住宅手当が、基数に入れるべきとなっているという法的意見を紹介しました。
しかし、残業しても、実際には従業員の通勤、食事などの出費が増えるわけではないので、残業代の基数に算入することで残業代が増えるのはおかしいのではないかと、多くの企業から問い合わせもいただきました。
先般、この問題がついに明確になりました。2016年6月末に、上海人力資源社会保障局は「上海市企業給与支給弁法」を修正、発表し、2016年8月1日から施行される予定です。
(http://www.12333sh.gov.cn/201412333/xxgk/flfg/gfxwj/ldbc/gzzl/201607/t20160701_1245917.shtml)
その第9条が、「残業代および休暇給与の計算基数は労働者所在ポジションの正常出勤月の給与とし、年末賞与、交通手当、食事手当、住宅手当、夜勤手当、高温手当、残業手当など特殊な場合に支給する給与を含まない」と修正されました。
この修正で、残業代や各種休暇時給与の計算基数は、各種手当を含まないことが明確になり、多くの日系企業が安心されたことと思います。
今回の法規修正を以下に抜粋させていただきます。
1.「試用期間中の給与は、会社における同等なポジションの最低給与の80%、或いは正式雇用時給与の80%を下回ってはいけない。」今までの仲裁や裁判の法律実務の場面でも、同じ考え方が適用されていましたが、今回の修正で、明文化されました。
2.「婦人節、青年節など一部の公民休暇日に、公共イベント、或いは会社イベントに参加する従業員、或いは通常勤務する従業員に対し、会社は給与を支給すべきであるが、残業代を支給しないものとする。ただし、当該休日が土日である場合、会社が労働者に出勤させた場合、本条第二項で規定される残業代を支給しなくてはならない。」
条件を満たす従業員に対し婦人節、青年節は半日休暇を与えるべきと法律が定めています。一方、これらの休暇に出勤した際、法定休日同様、300%の残業代を支給すべ
きかどうかは、見解が分かれていましたが、今回、通常給与を支給すればよいことが明確になりました。
3.「会社が理由なく従業員に給与を支給しない場合、或いは給与が最低賃金を下回る場合、または従業員に残業させ、法規定通りに残業代を支給しない場合、人力資源社会保障行政部門から給与の支給を命じる。期間をすぎても支給しない場合、50~100%の基準の金額で従業員に弁償金を支払わなければならない。」現行法でも、残業代を規定通りに支給しない場合、25%の弁償金が規定されていますが、今回の修正で、弁償金の比率が50~100%に引き上げられました。一部残業代を支給しない企業を対象とする処罰対策ですが、これから行政機関による監督、処罰が厳しくなる可能性が高いと思われます。
上記のように、今回の法修正では、具体的な判断、計算方法などが一部明確になりました。ただし、企業の雇用負担を軽減する要求が高まる中、全面的に会社に有利とは言いにくい修正ではあります。