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1 女性従業員の定年について
中国の女性従業員の定年は現在原則50歳、女性管理職(干部)については55歳と定められています。ちなみに江蘇省では管理技術職場で働く女性従業員の定年も55歳となります。
ところがこの「干部」の解釈を巡って争いが起きるようになりました。
上海市の日系企業でも50歳の定年を超えても、労働契約では無い「労務契約」を結び働き続ける事例が増えています。
一方、日系企業が、対象従業員の過去の勤務態度から「これをきっかけに定年退職で完全に退職し欲しい」と考える場合もあります。
今回は女性の定年に関する判決をご紹介します。
2 事案
1998年11月10日、中国工商銀行南京支店は李香蘭と労働契約書を締結し、李香蘭の元身分を「工人」と明記しました。
2002年4月26日、中国工商銀行江蘇省支店営業部(甲)は李香蘭(乙)と労働契約変更契約書を締結し、甲は乙の労働関係を保留し、人事ファイルを保管することを約束し、乙側の各種社会保険、積立金は甲が代行して納付し、乙側の賃金関係は南京豊業会社(豊業会社)に転入することを約束しました(日本で言う出向のようなものです)。2005年10月28日、豊業会社は李香蘭と労働契約書を締結し、その中に李香蘭の身分変更に関する内容はありませんでした。
2011年12月から、李香蘭は豊業会社の子会社である豊泰社の会計を担当した。豊業会社は管理技術部署を認定しておらず、省人社庁に管理技術部署名を申告したこともありません。
2018年7月、李香蘭は満50歳になり、省人社庁は2018年8月14日に人力資源社会保障部門の審査意見欄に印鑑を押して確認した。従業員退職承認表の身分欄は「工人」、契約確定職場の欄は空白、法定退職年齢の欄は50歳でした。
李香蘭は省人社庁が下した退職審査決定を不服として裁判所に提訴しました。
3 判断
一審、二審、最高裁も、いずれも以下のような判断をして李香蘭の訴えを退けました。
「中国工商銀行南京支店と締結した労働契約はその元の身分が「工人」であることを明らかにし、その後豊業会社と締結した労働契約もその身分を変更しなかった。李香蘭は豊業会社の子会社である豊泰会社の会計を担当していたが、豊業会社は管理或いは技術職場を認定したことがなく、省労働保障部門に管理技術職場の名簿を申告したこともなかった。
そのため、李香蘭の訴えは理由が無く、50歳で定年退職扱いすることは何ら違法では無い。」
4 実務上の留意点
「干部」の定義を曖昧にしておくと定年年齢について紛争が起きる原因となってしまいます。就業規則の定年の記載に「干部」の定義を明確にしておくことをお勧めします。「干部」の定義は法令上明確では無く、各社就業規則で自主的に定めた定義を裁判所も尊重します。日系企業でいえば「課長以上」「部長以上」などとすることが多いようです。ご参考になれば幸いです。