上海の条例では、「従業員の結婚に対し、10日間の結婚休暇を与える」と定めており、日系企業でも従業員が在籍期間中に結婚した場合に、休暇を与えています。ただし、従業員入社前の結婚では、その休暇利用状況を証明することが困難なうえ、入社前の結婚に対し、会社が休暇を与えることが不合理なため、ほとんどの会社は休暇を与えていません。この処理方法は非常に合理的だと思われるのですが、本当に法律リスクはないのでしょうか。最近、興味深い判決がありました。
ある従業員は2019年3月1日に履歴書を提出し、婚姻状況に「既婚」と記入し、某会社に応募しました。会社は面接を行って、採用を決め、勤務開始日が3月5日付けの労働契約を締結しました。2019年5月6日に、従業員は「実家に戻り、結婚式を上げる」との理由で、結婚休暇を申請しましたが、人事部門は「在籍中の結婚のみ、結婚休暇が与えられる」と返答し、結婚休暇の申請を却下しました。従業員は会社の許可が得られないまま、2019年5月29日に実家に戻り、結婚式とハネムーン旅行に行きました。休暇から戻り出社すると、会社は無断欠勤を理由として、労働契約を解除しました。
従業員は会社の処分を不服とし、仲裁委員会に「無断欠勤と認定される期間の給与の支払い、会社の違法解雇による経済弁償金(2N)の支払い」を申し立てました。結局仲裁と三審の判決は、すべて従業員の主張を支持し、会社に支払を命じました。判決の根拠は以下のように提示されました。
l 従業員は結婚した後、結婚休暇を享受する権利がある。会社が結婚休暇を与えない判断には、合理的な理由が欠如する。
l 従業員の結婚登記日は2019年の2月22日で、3月5日の入社日までに、15日間(江蘇省の判例のため、当該地域の規定では結婚休暇は15日間と定められている)の結婚休暇を利用する時間がない。このため、会社が結婚休暇を与えないのは、当該従業員の権利を侵害するものである。
l 従業員は結婚式のために帰省しており、またハネムーン旅行は、結婚休暇を利用するべきものであるため、会社がこれを無断欠勤とし、解雇することは違法となる。
上記事案が発生する背景には、中国人の結婚は、法律上の「入籍日」と社会通念上の「結婚式日」の2つが認識され、一般的に半年以上期間が空けられていることも関係しています。入籍日は政府に登録する日で、明確な日付が証明できるため、ほとんどの会社は入籍日を結婚休暇の判断基準としています。ただし、今回の判例では、「結婚式のための結婚休暇取得で、不当とはいえない」と認定しているため、従業員が自由に選択できる「結婚式」を実施するために、休暇を与えるべきとの考え方が読み取れます。
今回の判例に対しては、多くの批判が出てもいます。非常に稀なケースのため、上海の裁判所では、異なる判決が下される可能性もあると思われます。とはいえ、会社としては、リスクヘッジの観点から以下の予防策を採り、事前に対応したほうが望ましいと考えられます。
1) 就業規則など、従業員が入社時に確認する資料に、「在籍期間中に入籍する従業員のみ、結婚休暇を与える」と明確に記入し、従業員の確認署名をもらう。
2) 面接時や履歴書にて、従業員の結婚登記日を確認し、入社日直前に入籍した従業員に対し、結婚休暇を既に利用したかどうかを確認し、その証明を残す。
3) 入社直前に入籍し、かつ前の会社で結婚休暇を利用しなかった従業員に対し、「本人は入社前に入籍したため、当社で結婚休暇を申請する権利を放棄する」との誓約書を残す。