[2011年5月号] 中国給与と物価上昇の切っても切れない関係

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 先日、2011年3月のCPI(消費者物価指数)が公表されました。今回は中国給与と物価上昇の切っても切れない関係についてお話します。通常は、経済学的な見地から、「物価上昇(=インフレ)によって通貨価値が目減りし、そのため、給与のベースアップを行うことで目減りした通貨の価値(給与)を補填しましょう」といったように解説されがちです。しかし、今回はこういったマクロな視点ではなく、もっと切実でかつ密接に中国人従業員に関わる点に注目したいと思います。
まずは、2011年1~3月のCPI推移について振り返ってみましょう。

  ● 2011年1月期:CPI上昇率 4.9%
  ● 2011年2月期:CPI上昇率 4.9%
  ● 2011年3月期:CPI上昇率 5.4%

 2011年の政府目標が「4%」とされていますので、目標よりも高い水準で推移しています。注目すべきは「食料品」の物価上昇です。2011年3月の食料品は、[11.7%]もの上昇となっています。広東省では、食用油が[16.7%]、穀物類(米以外)[20.9%]、ファーストフード[17.1%]という数値が公表されています。2010年秋頃から続いている食料品の物価上昇は留まる気配を見せていません。その他、庶民の生活に直結する内容の物価上昇には目を見張るばかりです。先日も日用品、ヘルスケア大手メーカーが3月末~4月にかけて5~15%の値上げをするという予定が公となり、上海などのスーパーでは「買い占め」の騒動があったばかりです。この値上げについては、国家発展改革委員会の直接指導が入り、当面の間「延期」となりました。しかし、ここに来て「原料高」から「電気料金の値上げ」がウワサされています。また、家庭用サービスでは[31.1%]もの上昇率を記録。このように「庶民の生活に直結」する品目が大幅な物価上昇となっています。

 もう1つ注目すべきポイントは、中国一般庶民レベルの[エンゲル係数]です。[エンゲル係数]とは、『家計の消費支出に占める飲食費のパーセントのこと(Wikipediaより抜粋)』。一般的に先進国ほど数値が低く、途上国ほど数値が大きくなると言われています。日本のエンゲル係数は、[約22%(2009年度)]。中国では、所得水準にもよりますが家計の[約40%]が食費です。この食費が平均11.7%、物品によっては、20%を超える値上がりとなっています。さらに電気や日用品に至るまで物価が連動して上昇しているのです。これは最低賃金水準の従業員ばかりではなく、4,000~5,000元の給与所得である中流層の家計も直撃していることを意味しています。

 また、上海では昨年9月以降から家賃を含む不動産の値上がりも続いています。今年からは固定資産税が試験的に導入されたことによって、さらなる家賃の値上がりも発生しています。「仕事をする前提」となる「衣・食・住」の[食]と[住]がおびやかされていると言っても過言ではありません。「最低賃金の引き上げ率」「会社が予想する昇給率」という数値に注目が集まってしまいがちですが、より重要なのは目の前にいる従業員の生活がどうなっているのか?という視点ではないでしょうか。

 5月からは上海では「従業員代表大会条例」が施行されます。また、ここ数年の間噂が絶えない「賃金条例」の動向も気になるところです。「賃金の集団交渉」がより具体化した際には、彼らが直面している「生活の危機」に目を向けなければ、交渉も不毛な争いとなってしまうかもしれません。ぜひ、「彼らの声」に耳を傾けてください。