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1 中国労働法における就業規則の重要性
就業規則は中国労働法において日本の労働法よりも重視されています。多くの日系企業は、就業規則を作成しても、その後あまり関心を持つことがないのですが、実際はその記載内容に従えば解雇が有効になる場合も多く、威力を発揮する場合があります。以下、就業規則の重要性を示した珍しい裁判例をご紹介いたします。
2 事案
黄は北京W社の従業員で、2011年8月20日に入社しました。
同社の就業規則には、合計3回の書面の警告を与えることで、会社は雇用契約を解除することができると規定されていました。
2012年8月28日、黄は、懲戒事由に基づき最初の書面による警告を受け、警告書に署名しました。
2019年3月20日、黄は「勤務時間中に携帯電話をいじったり、何度も居眠りをしたことは重大な労働規律違反である」として2回目の書面による警告を受け、警告書には黄が勤務時間中に携帯電話をいじったり、寝たりしている写真が印刷され、日付が表示されていました。
黄は、2019年5月20日、「関連する労働規律規則に重大な違反をして、繰り返し遅刻し、退勤時に打刻しなかった」として3回目の警告を受け、遅刻と退勤時の打刻を怠った日時は、2019年1月21日、3月18日、4月12日、4月15日、4月16日と記載されました。
2019年5月21日、会社は黄に解雇通知書を送付し、黄を解雇しました。
2019年6月18日、黄は北京朝陽区労働人事紛争仲裁委員会に労働仲裁を申請し、同委員会は解雇が違法であったとして137,840.64元の経済的補償金の支払を命じました。
会社は仲裁結果を不服とし、訴訟を起こしました。
3 裁判所の判断
第一審裁判所は、会社が提出した証拠により、黄が仕事中に寝ていたり、携帯電話をいじっていたこと、仕事に遅刻したり、退勤時に打刻しなかったことを証明できるとし、会社が黄に警告を与えたことは不適切ではないと判断しました。
会社の就業規則の2011年版および2017年版によると、会社は累積期間を指定せずに合計3回の書面による警告を受けた場合に、従業員との雇用契約を解除する権利を有しています。 そこで、会社は、黄が合計3回の警告を受けていたことを理由に雇用契約を解除しましたが、これは法律に則ったものであり、第一審裁判所は、黄に対する解雇を適法と判断し違法解雇を理由とする経済的補償金の支払を認めませんでした。
第二審、再審も同様に黄に対する解雇を適法であると判断しました。
4 実務上の留意点
「2回目の警告と3回目の警告に7年間のブランクもあったのに解雇が有効となるのはおかしいのではないか」と思われるかもしれませんが、中国の裁判所はなるべく民主的に適法に制定された就業規則のルールをそのまま適用しようとする傾向が強く、本件の事例は極端ではありますが、これに近い事例は十分起き得ます。解雇しないまでも、就業規則の懲罰事由や懲戒処分を従業員との退職交渉の材料として使うことも可能です。是非、会社の就業規則を読み返し、活用していただければと思います。
案号:(2021)京民申5255号