先日の確定申告において資料を税務局へ提出した後、税務局の担当者より「続けて赤字が出た理由は何ですか。同時文書を提出してください。」と要請を受けた会社がでてきました。
なお、その会社は関係会社間取引額が大きく、その占める割合が高い会社でした。しかし、「当社は同時文書の提出免除要件を満たしているのに、提出しなければならない理由は何か」という疑問の声が当然ながらあがったため、会社は弊社と相談し、赤字の理由を確認した上、税務局と交渉して、最終的には同時文書の提出が見送られることとなりました。しかし、これでリスクが解消されたとは言えません。
1. 「同時文書」とは、独立企業間価格に沿っているかどうかを判断するのに必要な情報を課税当局に提供す
ることにより、調査過程における納税者と課税当局の助けになる書類であり、移転価格税制のリスクを回避
するため、会社が自ら関連会社取引の価格設定が適切だと主張し、根拠を提供する書類とも考えられま
す。
2. 「同時文書」の提出について。2009年1月9日中国国家税務総局は「特別納税調整実施弁法(試行)」を公
布し、一定要件を満たす企業に対し、移転価格の同時文書の準備・保管・提出を義務付けています。提出
免除の要件は次の通りです。
①年間の関連仕入販売金額(来料加工の場合、年度輸出入通関価格で計算)が2億元以下で且つその他関
連取引金額(関連融資資金は利息の受取支払金額により計算)が4千元以下の場合。
②事前確認(APA)の対象範囲に入っていること。
③外資持分が50%以下で且つ国内の関連会社のみと関連取引が発生する場合。
しかし、2009年7月に公表した「クロスボーダーの関連取引の監視および調査の強化に関する通知(国税函[2009]363号)」により、提出の範囲が拡大されました。「限定された機能およびリスクを負担する企業に損失が生じた場合には、同時文書作成の基準(上記の免除要件の①)に達しているか否かにかかわらず、損失が生じた年度については同時文書およびその他の関連資料を準備するとともに、翌年の6月20日までに主管税務機関に報告送付すること」と定められています。
「限定された機能およびリスクを負担する企業」は、「多国籍企業が中国国内に設立した単一生産(来料加工あるいは進料加工)、小売あるいは受託研究開発等の限定された機能およびリスクを負担する企業」を指します。
移転価格税制が厳しくなりつつある中国で、①会社の負う機能およびリスク ②いろいろな 関係会社間取引(仕入、販売、親子ローンによる金利、技術指導料、商標使用料など)の価額設定を定期的に検討し、関係会社と協議の上、リスクを回避する必要があると考えられます。関係会社間取引額が大きく、赤字の状態が続いている会社は特に注意する必要があります。