![]()
PDF版はこちら →人事労務通信 2026年2月号
近年、業務効率の向上と運営コストの適正化を目的として、人員削減を検討する日系企業が増えています。しかし、中国の労働法規は労働者の保護を重視しており、一方的な契約解除は労働紛議に発展し、違法解除と判断されるリスクが高いのが実情です。解雇を行う際には、適切な法的根拠を確保することが不可欠です。
人員削減における「労働契約の協議解除」は円満な方法ですが、従業員からの拒否や高額な経済補償金要求により、企業にとって負担が大きくなる場合があります。こうした事態を回避するためには、法的に認められた解雇事由を背景として交渉を進めることが有効です。その中でも、「労働契約法」第40条第3項に定められる「労働契約締結時の客観的情況が重大に変化し、契約の履行が不可能となった」事由がよく活用されます。最近、この「客観的情況の重大変化」の認定について参考となる判例が示されました。
ある中国系大手自動車企業が約2年にわたり赤字状態にあり、業績改善を目的として一部組織及び関連会社の調整を決定しました。これに伴い、対象従業員に対して以下の選択肢を提示しました。
- 1. 上海での別ポジションへの配置転換(給与20%減給)
- 2. 他地域での同ポジションへの配置転換(給与水準維持)
- 3. 労働契約の協議解除
該当従業員がいずれの選択肢も拒否したため、同社は「客観的情況の重大変化」を理由に労働契約を解除しました。これに対して従業員が仲裁及び訴訟を提起しましたが、一審・二審とも以下の理由により、会社側の解雇行為が合法であるとの判断を示しました。
- 1.今回の人員削減は特定個人ではなく組織全体を対象としており、企業が経営戦略や組織構造を自主的に調整することは、信義誠実の原則及び公平の原則に反しない限り、「客観的情況の重大変化」に該当し得る。
- 2.同社が長期にわたり赤字状態にあり、早急な調整を行わなければ企業利益が損なわれ、最終的には全従業員の利益に悪影響を及ぼすことから、今回の組織調整は「客観的情況の重大変化」と認めるべきである。
- 3.会社側がポジション変更や協議解除の選択肢を提示したことは、誠実な協議義務を果たしたものと認められる。
今回の判例は、一定の条件下で企業側の組織再編に伴う解雇が認められた事例です。ただし、本件は大手企業における長期的な赤字状態という特殊な事情を背景としており、同様の事案であっても必ずしも同一の判断がなされるとは限りません。
特に、多くの日系企業で採用されている「職種等級制」では、個別の「ポジション」が明確に定義されていないケースが少なくありません。「ポジション変更」を行う場合にも、その客観的根拠が不十分となる傾向があります。このため、日々の人事労務管理制度を構築するにあたっては、以下の点に留意することが望まれます。
- 1.「業務ポジション」を明確に設定し、労働契約の締結時や配置転換時には、その内容を書面により確認する。
- 2.「業務ポジション」を設定する際には、職務記述書(ジョブディスクリプション)を通じて、各ポジションの役割と責任の範囲を明確に区別する。
- 3.各「業務ポジション」に対応した賃金範囲(給与レンジ)を設定する。
