
PDF版はこちら →China Info JPマイツ通信 2025年11月号
日本の消費税に相当する増値税は、2026年1月1日より「増値税法」の施行を前に、昨今、各種の規定や同法実施条例(意見聴取稿)が公開されるなど、注視すべき状況にあります。今般、2025年8月には増値税の還付政策にかかる新規定(財政部・国家税務総局2025年第7号、及び同号規定の手続き・管理方法に係る関連事項を定めた国家税務総局公告2025年第20号、以下“両規定”と表記)[i]が公布され、翌月の9月1日から施行されました。
両規定は、従来の増値税の仕入控除留保還付金額(以下“増値税繰越税額”と表記)に係る還付政策と比較して、全業種への拡大や、後述の“製造業等4業種”では、月次ベースで還付申請が可能となる等、本制度の活用により直接的な資金還流が見込め、キャッシュフローの改善に寄与し得ます。従い、本稿では両規定の概要や事例説明、留意事項を説明します。
1.増値税繰越税額の還付政策にかかる新規定
中国の増値税は、過去は期末において売上増値税よりも仕入増値税の税額が上回ったとしても、(ゼロ税率を適用する輸出に対応する仕入増値税を除き)還付が認められず翌期に繰越していましたが、財政部・国家税務総局・税関総署公告2019年第39号等により制限付きながら、増値税繰越税額に対する還付政策が採られ、その後、財政部・国家税務総局公告2022年第14号[ii]等により、対象期間や対象企業が更に拡大されました[iii]。
今般、財政部・国家税務総局2025年第7号により全企業が対象となり、且つ、条件に合致すれば月次での還付申請が可能となり、同政策による資金繰りの改善が期待できます。但し、対象企業の分類ごとに当該繰越税額の適用条件や還付金額等が異なります。尚、本施行に伴い旧政策(2019〜2022年公告)の関連規定は廃止され、現行政策に一本化されます。両規定の概要は、以下の通りです。
(尚、対象業種は、該当業務により発生した増値税の課税売上高が、当該納税者の全増値税課税売上高の50%超か否かで判断し、還付申請前の連続12か月間の売上高(但し、申請前の経営期間が12か月に満たないものの3か月以上ある場は、実際の営業期間における売上高)に基づいて算定します。)
| 税額還付申請が可能な条件*¹ | 還付可能な繰越税金 | |
|
製造業等
4 業種
|
月次 (期末の増値税繰越税額の還付申請が可能) |
当期期末の増値税繰越税額×仕入税額構成比率*³×100% |
|
不動産開発
経営業
|
還付申請前に6ヵ月連続(四半期納税者は2 四半期連続、以下同じ)で新増の増値税繰越税額が 0 元超且つ第 6 か月で 50 万元以上 | (当月期末 − 2019 年 3 月末)の増値税繰越税額×仕入税額構成比率×60% |
| その他の 全業種 |
還付申請前に 6 か月間連続で期末の増値税繰越税額が全て 0 元超、且つ第 6 か月では前年12 月末*²比の新増の税額が 50 万元以上 | (当期期末−前年 12 月末*2)の増値税繰越税額が1 億元以下部分×仕入税額構成比率×60% +1 億元超過部分×仕入税額構成比率×30% |
| *1:本政策の享受は、一般納税者が前提 *2:“前年12月末”とは、正確には“還付申請前の一納税所属期の前年度 12 月 31 日”を指す *3:仕入税額構成比率とは、以下の通り。
|
||
|
事例説明:某納税者は、2025 年 10 月に 2025 年 9 月課税期間分の増値税申告を完了後、(上記③)“その他”の納税者として期末の増値税繰越税額の還付申請を行った。
申請前の連続 6 か月(2025 年 4 月~9 月課税期間)における期末の増値税繰越税額は、それぞれ以下の通り: ➾【4 月:10 万元、5 月:40 万元、6 月:50 万元、7 月:25 万元、8 月:50 万元、9 月:80 万元】 ➾2024 年 12 月 31 日(申請前直近の課税期間の前年末時点)の期末増値税繰越税額は 20 万元 上記に基づき、本政策の要件を充足するか否かを確認する: ➢申請前の連続 6 か月間において、各月の期末の増値税繰越税額が全て、ゼロを超えていること ➢第 6 か月(2025 年 9 月)の期末の増値税繰越税額(80 万元)が、2024 年 12 月末の期末の増値税繰越税額(20万元)と比較して、60 万元の増加となっており、政策上求められる「50 万元以上の増加」に該当すること 従って、当該納税者は「申請前連続 6 か月間における期末の増値税繰越税額が全てゼロを超え、且つ第 6 か月の期末の増値税繰越税額が前年 12 月末の当該税額と比較して 50 万元以上増加」との還付申請要件を充足する。
|
➢本政策の適用要件:対象企業は(一般納税者に加えて)以下の全ての要件を満たす必要がありますが、当該要件は、財政部・国家税務総局公告2022年第14号等と同一です。
- ①納税信用等級がAランクまたはBランクであること
- ②還付申請前36ヵ月間に当該繰越税額還付や輸出還付での詐取、増値税専用発票の虚偽発行が無いこと
- ③還付申請前36ヵ月間に脱税による税務機関から2回以上の処罰が無いこと
- ④2019年4月1日より”即徴即退、先徴後返(退)政策”を享受していないこと(本公告の別途規定を除く)
➢免除控除還付方式と(商業貿易企業等の)免税還付方式との関係:輸出貿易取引、或いはクロスボーダー役務や無形資産(ロイヤリティ)等の輸出取引では、まず免除控除還付方式を適用した上で、更に本公告が適用される(仕入税額が上回る)状況に合致すれば、本政策の活用が可能です。また、(商業貿易企業等の)免税還付方式を適用する場合には(“1対1”方式にて)対応する税負担が既に軽減されており、当該仕入税額は本政策の還付申請をしてはならない等、従来政策を踏襲しました。
➢即課税・即還付政策との排他性:2019年4月1日以降に”即徴即退、先徴後返(退)政策”政策を適用した納税者は、既往の還付税額を一括で全額返還した場合、返還完了の翌月から、両規定に基づく、増値税繰越税額の還付申請が可能です。また、当該還付済税額の全額返還後に、当該繰越税額の還付若しくは”即徴即退、先徴後返(退)政策”のいずれかの方式を選択しますが、返還完了の翌月から起算して36か月間は選択した方式の変更が不可です。
➢税務機関による審査・停止・終了及び還付後の調整処理:税務機関は、“申告異常、虚偽発票、調査中、詐欺的手段による還付取得”等のリスク要因がある場合、当該還付申請の停止・終了が可能です。還付申請の受領日から起算して原則10営業日以内に審査を完了し(承認・拒否等)通知書を発行します。また、もし還付後に申告修正や誤適用が判明した場合、次回申告期までに当該税額還付金の返還が必要です。更に仕入税額控除の過大や虚偽申告等があった場合は税務機関が追徴、処分します。(税収徴収管理法[v]に基づく処分となり、最も厳格では刑事罰の対象となり得る建付けです。)
2.留意事項及びまとめ
まず本増値税の還付政策は対象企業範囲が全業種に拡大され、更に“製造業等4業種”では、月次での還付申請が可能となり資金繰りの改善に寄与し得ます。但し、分類ごとに還付対象金額や計算方法が異なる為、日本本社も必要に応じて本政策の適用の要否や、導入に係る子会社支援が望ましいと考えます。
更に、前回(2022年)の政策拡大時には、増値税の還付後、税務調査が入る事例等も散見されました。現在は金税四期により、税務当局では従来よりも詳細な企業情報の補足が可能となっており、還付政策を享受するのであれば尚更、適切な税務対応が望まれます。
[i] 原文URL:国家税务总局政策法规库(財政部・国家税務総局2025年第7号)/原文URL:国家税务总局政策法规库(国家税務総局公告2025年第20号)
[ii] 原文URL:国家税务总局政策法规库(財政部・国家税務総局公告2022年第14号)
[iii] 増値税に係る繰越税金の過去の経緯等は、JPマイツ通信【2022年4月号】を参照のこと。マイツグループのニューズレターは以下の通り。
URL;ニューズレター アーカイブ| 株式会社マイツ
[iv] 关于《国家税务总局关于办理增值税期末留抵税额退税有关事项的公告》的解读(原文)より抜粋
[v] 原文URL:国家税务总局政策法规库(税収徴収管理法)
