別の部署の管理職への異動を拒否した場合に解雇できるか?
PDF版はこちら →人事労務通信 2025年7月号
1 中国における会社の人事異動命令権
中国において会社の人事異動命令権がどこまで認められるかは、判断が非常に難しい点です。原則として、対象従業員の同意がなければ岗位(日本語でいう「職務」または「ポスト」)を変更することはできないとされています。
しかしその一方で、様々な事情から部署が廃止されることもあり、本人が拒否していても異動を実施せざるを得ない場合もあります。 このあたりの判断基準が曖昧なため紛争が生じることがありますが、本稿では、別の部署の管理職への異動命令に対し、対象者がこれを拒否したために解雇に至った事例を取り上げます。
2 事例
楊氏は2020年4月1日に深センのA社に入社し、展示販売管理センターの企画シニアマネージャーを務めていました。労働契約期間は2020年4月1日から2023年6月30日までで、毎月の賃金基準は25,000元でした。
双方が締結した「労働契約」では、「会社の生産経営上の必要性により、楊氏の職務を調整することができる」と定めていました。また、就業規則では、以下のいずれかの行為があった場合、会社の規則規定に重大な違反をしたものとみなし、労働契約を解除する処分を科すと定めていました。
3 「会社の業務命令に従わず、または通知後も所定の時間に出勤しない場合」
2020年12月、会社の組織構造が変更され、展示販売管理センターは廃止、マーケティング管理センターに再編されました。これに伴い、楊氏の職務は展示販売管理センターの企画シニアマネージャーからマーケティング管理センターの企画マネージャーに変更されました。両職務は社内の職務レベルにおいていずれもC級の最上位でしたが、楊氏は同意しませんでした。
2021年1月20日、会社は『労働契約解除通知書』を発行し、以下の内容を明記しました。
「当社の管理上の必要性から、あなたを展示販売管理センターからマーケティング管理センターへ異動させ、給与・福利厚生を変更せずに『グループ職級体系』に基づいて職務を調整しました。しかし、あなたが当社の異動命令に従わないことを考慮し、当社は法に基づき、あなたとの労働契約を解除します。」
2021年1月30日、楊氏は労働仲裁を申請し、違法な労働契約解除による経済補償金の支払いを要求しました。2021年3月1日、労働仲裁委員会は裁決を下し、会社に、違法な労働契約解除の賠償金として53,479.78人民元を支払うよう命じました。
会社はこれを不服とし、裁判所に上訴しました。
4 判決
一審・二審判決:【解雇有効】
会社による楊氏の職務調整は、会社の自主的な経営管理権の行使に該当する。
企業は、生産経営上の必要性から、具体的な経営業務、管理方式、組織構造および職務設定について調整を行うことができ、これは使用者の経営管理および自主権の範疇に属する。
本件において、会社が経営上の必要から楊氏の所属部門を廃止し、それに伴い楊氏の職務を調整したことは、会社の自主的な経営管理権の行使に該当する。
楊氏の調整前後の職務は、いずれも社内職級C級の最上位であり、かつ楊氏の給与待遇に変更はなかった。楊氏は本件職務調整が侮辱的であると主張するが、その主張には事実的根拠が乏しいため、当裁判所は採用しない。
以上のことから、会社による楊氏の職務変更には合理性と必要性があり、この変更は労働契約に違反せず、法律の強行規定にも違反せず、さらに懲罰的または侮辱的な性質も有しないため、労働者はこれに従う義務がある。
しかし、楊氏は異動に同意しない旨を明確に表明したものの、調整後の職務に従事できない合理的な事由があることを証明していない。楊氏が異動を拒否した行為は、会社の就業規則に定める重大な違反行為に該当し、会社はこれに基づき楊氏との労働契約を解除した。これは法律の規定に合致しており、楊氏は会社に対して賠償金の支払いを要求することはできない。
5 実務上の留意点
ごく当然の結論だと思われますが、本件は、①経営上の必要性②賃金など実質的な不利益がないこと③侮辱的な異動ではないこと、という条件を満たせば、会社は異動を命じることができ、従業員がこれを拒否した場合には解雇も可能であることを明確に示しています。 できる限り強硬な手段を用いるべきではありませんが、理不尽な異動拒否に直面した際には、上記の法的根拠や判例の趣旨を説明し、会社の異動命令に従うよう説得することが求められます。
事件番号:(2021)粤03民终27021号(当事者仮名)