【2024年10月】有給休暇放棄の有効性

 

有給休暇放棄の有効性

 

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中国でも日本でも有給休暇をどのように消化するかは悩ましい問題です。中国では従業員が自主的に有給休暇を放棄することも可能であり、その際にトラブルになることがあります。

1.有給休暇の買取・放棄について

(1)有給休暇の買取義務

「企業従業員有給年次休暇実施弁法」(実施弁法)第5条では、有給休暇の繰越は可能ではあるが有給休暇の繰越を行わない場合は会社に有給休暇を買い取る義務があると規定されております。

(2)買い取りを避ける方法

実施弁法第10条の規定に基づき、従業員が自身の原因により、有給休暇を取得しなかった場合、雇用主は有給休暇を買い取らなくとも構いません。但し、会社が従業員に有給休暇を手配したにもかかわらず、従業員本人の原因により有給休暇を取得しない旨の書類を提出してもらう必要があります。この書類を出してもらう際にトラブルになることが多く(「私は忙しくて取れなかっただけだ」等の反論を受けることがあります)、今回はこの放棄書の有効性が問題になった事例について取り上げたいと思います。

 

2.有効性放棄の有効性が問題になった裁判例

(1)事例

2010年4月15日、謝は上海F社に入社しました。

2017年1月10日と2018年1月10日、会社は謝に2枚の年休請求書を発行し、謝は2枚の用紙の欄にチェックを入れて2017年と2018年の有休を自主的に放棄し、確認のために用紙にサインをしました。

2018年7月31日、両者は雇用関係を解消しました。

2018年10月16日、謝は年休請求書にサインをするよう強要されたとして労働仲裁を申請し、2017年に使用期限のある年休10日分と2018年に使用期限のある年休5日分の賃金16,919.54元を支払うよう会社に要求しました。

仲裁委員会は謝の仲裁申請を支持せず、謝はその仲裁結果を不服として人民法院に提訴しました。

(2)判断(一審・二審)

結論:年休の放棄は有効である。謝は完全な市民能力を有する者として、自らの行動に責任を持つべきである。

理由:謝が署名した年休申請書によると、謝は2017年と2018年の年休を放棄することを明言していた。謝は完全な民事能力を有しており、謝が署名した「年休申請」は法律と行政法規の強制規定に違反せず、公序良俗に反せず、謝は強制されて行ったことを証明できなかった。 したがって、未取得の年休について2017年に10日、2018年に5日の支払いを求める謝の請求は支持されない。

 

3.実務上の留意点

中国の場合、どちらかというと杓子定規に書面にサインをしていたら有効であると判断する傾向が強いので、今回は会社が勝ちましたが、この放棄のやり方は方法を間違えると従業員との人間関係を損なう可能性がありますので、やはり有給休暇は計画的に消化してもらう必要があります。

事件番号:(2020)上海民生第644号(当事者仮名)