【2024年8月】固定期間労働契約でも、期間満了で終了できないか?!!

 

PDF版はこちら →人事労務通信 2024年8月号

 

 2024年4月30日に、中国最高裁判所は労働紛争に関する典型的な判例集を公表し、近年増加している労働紛争に対する判断基準を明確にしました。その中には、会社が固定期間の労働契約の期間満了を理由に終了させ、従業員が違法解雇を主張し、訴えた事案が含まれています。

 

 具体的には、従業員は会社と2度の固定期間のある労働契約を締結しました。このうち、2回目の契約は2020年7月31日で終了することが定められていました。しかし、2020年6月10日に、会社は契約期間満了による終了を従業員に通知しました。その後、従業員は数回にわたり会社に対して無固定期間労働契約の締結を求めましたが、会社はこれを無視し、契約終了時には法に基づく経済補償金を従業員に支払いました。これを受け、従業員は2020年8月1日からの無固定期間労働契約の締結を要求し、仲裁所へ仲裁を求めました。しかし、仲裁所は従業員の主張を支持しなかったため、従業員はその後裁判所へ訴訟を起こしました。
裁判所は、「従業員が連続して2回の固定期間労働契約を結び、且つ、労働契約法第39条の従業員側の重大な過失による解雇理由や労働契約法第41条1項及び2項の定める事由(従業員の疾病、業務外での負傷、能力不足、契約締結時と異なる重大な変化による契約解除事項)が存在しない場合、従業員が無固定期間労働契約の締結を求めるならば、会社はこれを拒否することはできない」と判断しました。

 

 最高裁判所の典型判例集によると、「無固定期間労働契約の強制的な締結は、当時の労働契約の短期化問題を解消し、労働者の就業権を保護するための措置であり、会社側の契約する際の自由を制限しつつも、弱い地位にある労働者と強い地位にある会社間の実質的な平等を確保する目的で妥当であると考えられる。」と説明しています。

 

 しかし、既に締結されている固定期間労働契約を期間満了で終了可能かどうかについては、さまざまな見解が存在します。上海市以外の裁判例では、2回目の固定期間労働契約が期間満了による終了ができないケースが多く見られ、会社が強制的に終了すると、従業員は2倍の経済補償または再雇用を要求することが可能です。一方、上海では、固定期間労働契約が設定されている限り、回数を問わず、全て終了できるとの見解が強いです。

 

 中国の複数地域に拠点を構える日系企業も多く、全従業員の公平性を保つため、一貫したルールの運用を希望する日系企業も多いです。しかし、労働契約の締結回数だけでなく、残業代の計算方法や病気休暇の付与等、ローカル規定が存在し、地域で規則が大きく異なります。1ヶ所のローカル規定で統一すると、一部地域の従業員を優遇することになってしまいます。会社側から見れば、全員一律の福利待遇で問題がないと感じますが、従業員の観点からは、他の地域の従業員が特別待遇を受けていると感じ、法に従っている自分は不公平に思えます。そのため、各地方の子会社の経営方針に合わせて、個々の労務管理ルールを設定することが望ましいと考えられます。