【2024年6月】「自営型」雇用を実現する人事制度

 

 


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日本の組織論における第一人者と言われる同志社大学の太田肇教授が提唱される「自営型」雇用に関心を持たれる経営者が増えているようです。いわゆる「メンバーシップ型」「ジョブ型」に替わる第三の雇用形態として、変化の時代に対応し得る優れた雇用形態だと言われています。教授は「日本に最適」と述べておられますが、私はこれは中国の日系企業にはもっと適しているのではないかと考えています。

「自営型」の詳細は、太田教授の著書をお読みいただければと思いますが、残念なことに教授は、この雇用形態に対応する人事・報酬制度については、「人事評価は簡単になる。それぞれの会社にあったやり方がある」としか記されておりません。確かにその通りなのですが、それではどこから手を付けるべきなのかが分かりにくいかもしれませんね。そこで今回は「自営型」雇用を実現する制度とは、どのように構築すると良いかを考えてみたいと思います。ちなみに太田教授の承認はいただいていませんので、そちらへお問い合わせすることはお控えください。

まず、「自営」なのですから、決算書が必要になるでしょう。

①    対象個人の損益計算書を作成する

個人の決算書を作ろうと思えば、管理会計整備が必須となりますが、ごく簡易なもので問題ないはずです。損益計算書における「売上高」には、外部売上だけではなく、内部売上即ち、会社から当該社員への業務委託費を含めてあげると良いと思います。経費における人件費は対象個人の給与等ということになり、それこそ「自営」ですので、経営者である個人が自分で決めていい、というのが原則です。それで赤字が続くなら倒産ですので、給与を下げるか、売上を上げるか、その他経費を削るかなど、最重要ステークホルダーである所属企業の納得を得られるよう、一定のガイドラインがあれば十分でしょう。貸借対照表やキャッシュフロー計算書もあったほうがいいですが、なくてもスタートはできそうです。

次に、利益分配のルールを定めましょう。貸借対照表がなくとも、出資比率だけは設定し、利益は会社と個人で案分、損失が出た際の増資や、倒産ルールは決めておきたいですね。これを従来のジョブスクリプションに替わる「業務委託契約書」として締結します。

②    業務委託契約書を整備する

この契約には会社の資源を利用する場合の規程やその対価、成果物の納品規程などを含めてください。

最後に、経営計画書の作成と、そのプレゼン機会を制度化しましょう。株主総会みたいなイメージです。

③    経営計画の作成、発表、および会社へ向けた提案制度を設ける

従業員が会社にして欲しいこと、自分が提供すること、それをどのように実現していこうと思っているかを共有するために行います。「計画書」というようなドキュメント作成が苦手な職人気質の方でも不利にならないよう、これができない方には、できる方がサポートしてあげる「エージェント制度」も併設していただけるとなお良いかなと思います。

一気に全社員を「自営型」に切り替えるのは難しいかもしれません。あくまでも社内制度ですので、労働法の制約も受けます。よって、まずは希望者と、新規入社人材を対象とし、3年ほど掛けて徐々に切り替えていただくのが良いかと思われます。周囲に自営型雇用社員が増えて、成功事例が出てくると、そうでない方は徐々に肩身が狭くなってきて、自営型に切り替えるか、お辞めになるかの選択をされるようになるはずです。

自社で「自営型」雇用制度を導入したいとお考えの経営者、人事責任者の方がいらっしゃいましたら是非マイツへご相談ください。