【2023年7月】中国リスク視覚化・全体俯瞰の効用

 

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2022年12月7日、中国政府は「コロナ防疫を一層最適化し実行することに関する通知」という政策を発表し、約3年間堅持したゼロコロナ政策を大きく緩和しました。そこから約半年が経過、在中国日系企業各社においても新たな目標を掲げて日々邁進されている事と思います。

一方、最新の経済展望では、「ゼロコロナ政策の解除により急回復した中国景気は、消費以外の需要の伸び悩みで回復ペースが鈍化。」といった見解も見られ、日本親会社からの「現地特有のリスクを把握したい」「現地の最新の管理状況を改めて把握したい」といった声を耳にするケースもあります。

在中国日系企業各社にとっては、外部・内部の経営環境を正しく把握し、適切な事業運営を行わなくては、企業成長が難しい時代であるとも言えます。

本号では、中国リスクを『中国事業における目標達成の阻害要因』と定義し、企業成長を支える1つの施策をご紹介します。

中国リスクと向き合う

「中国リスクには何があるか?」「どうしたら目標達成が出来るか?」と問われた際、少し考えてしまう経験はないでしょうか?特に、中国市場の移り変わりが早く、中国現地企業との競争も一層激化し、製品・サービスを中国において低コストで製造し、中国市場や海外市場で販売するだけでは中長期的な成長を描き難い状況を目の当たりにしているからこその反応でもあると推察します。

しかしながら、これらの問いに回答するには、普段からの考察だけでなく、中国リスクには具体的に何があるかを捉えた上で、複数のリスク事象を視覚化して全体俯瞰する事がその第一歩となります。

中国リスク視覚化・全体俯瞰の効果

一方、中国リスクを視覚化・全体俯瞰して、現地法人の経営・事業運営に役立てている在中国日系企業はそれほど多くないと思われます。その理由としては、そもそも中国リスクを視覚化・全体俯瞰する事の効果が分かり難い、日本本社の期待や指示事項への対応に時間を確保する必要がある、人員が不足する中で日常業務を安定的に推進する必要がある、専門的知見が不足している、などが挙げられます。

そこで、以下に中国リスク視覚化・全体俯瞰の効果を例示しますので参考にしてください。

 

≪効果例示≫

・中国リスク視覚化には従業員意見の取込が不可欠で、日本駐在員の現地理解を深める事に役立つ

・従業員間で中国リスクに関する共通認識を持つことが出来、事業運営の協業意欲が高まる

・中国リスクへの具体的対応が部門横断となる場面でも、自分事として行動するよう方向付け出来る

・中国リスクに対する優先順位付けや対応策整理が出来、結果的に経営・事業運営が効率化する

・想定外の事象発生時でも他のリスク検討を通じて事前の備え・危機対応の早期化に役立つ

 

この様に、中国リスク視覚化・全体俯瞰を進める事で、中国リスクへの対応が日常業務に落し込まれ、経営者・従業員のリスク感度を高める事に繋がり、『中国事業における目標達成』を効果的・効率的に実現する事が期待されます。

 

中国リスク視覚化・全体俯瞰の具体的手続

中国リスクを視覚化・全体俯瞰する事を一般に「リスク識別」と言いますが、その具体的な手続きにはいくつかの手法があり、『リスク事象一覧』(日本親会社提供資料や一般的素材など)を活用して実行する事が肝要です。

 

≪リスク事象一覧(例示)≫

リスク識別において有用な『リスク事象一覧』を以下に例示しますが、リスク識別の観点として、
ビジネス環境」と「管理状況(経営側面、業務側面)」の他、「社会的意義」にも着目する事が有益です。特に、「社会的意義」の観点で議論や意見交換する事で、現地従業員の考え方を深く理解する事が出来、また、現地従業員の共通認識を得るための基礎固めに繋がるため、いわゆる『「現地特有のリスク(中国リスク)」とは何か?』を把握する事に役立ちます。

リスク識別の観点 リスク事象(概要)
ビジネス環境 日本親会社のモニタリング、中国特有の規制、日本との相違点、現地従業員の考え方、中国現地企業との競争、など
経営管理 中長期計画と成長シナリオ、企業再編(M&Aと事業整理)、価格戦略、日本親会社への報告、経営資源の有効活用、など
業務管理 会社資産の管理、契約管理、税務局への届出、資金調達・債権管理、技術ライセンスの管理、品質管理、など
社会的意義 経営者思考の浸透度、持続的な成長可能性、財務報告の適切性、コンプライアンス違反、経営者・従業員等の不正、など

 

≪具体的手続≫

ただし、外部から入手した『リスク事象一覧』などは、中国現地法人に必ずしも適合しない場合や、現地従業員が理解可能なレベルの個別リスクとして具体化されていないため、中国リスクを個別・具体的に識別するには、以下の手法を用いて検討する事が有益です。

・経営者・従業員によるブレインストーミング 【注1】

・経営者・従業員間でのグループワークを通じた意見交換

・リスクマネジメントに関する専門家の関与(ファシリテーション【注2】を含む)

中国リスク視覚化・全体俯瞰する事で、「中国リスクには何があるか?」「どうしたら目標達成が出来るか?」の問いに、ぜひ応えて頂きたいと考えます。

【注1】ブレインストーミングとは

・集団でアイデアを出し合うことで相互交錯の連鎖反応や発想の誘発を期待する技法で、会議方式のひとつです。

・一般に、ブレインストーミングの過程では、①判断・結論を出さない、②考えを歓迎する、③量を重視する、④アイデアを結合し発展させる、といった4原則(ルール)を守ることとされています。

【注2】ファシリテーションとは

・集団で問題を解決するために、認識の一致や相互理解に向けたサポートを行い、成果を生み出す手法のことです。
(会議やミーティングを円滑に進める技法)

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