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中国の労働契約法では、「勤務地」を必須項目として、会社と従業員が契約しなければなりません。会社の経営判断で住所を移転する場合、新しい住所を勤務地として、労働契約を変更する必要があります。この場合、ほとんどの従業員が会社に協力してくれますが、稀に一部の従業員が、「通勤時間が長くなった」、「労働契約を変更するため、経済補償金が欲しい」など、会社に交渉してきます。従業員の同意がないので、労働契約書の契約を少しでも変更してはいけませんが、裁判例を含み、見解が分かれています。最近、以下の判例が発表されました。
2017年8月23日、徐さんは会社と3年間の労働契約を締結し、勤務地を「深セン市」と契約しました。2020年5月、会社は住所の移転を決定し、すべての従業員に対し、以下の条件を発表した。
●会社は深セン市と東莞市の2か所の新住所を構えるため、従業員は一つ選択し、出勤することができる。
●従業員が深セン市の新住所に移転する場合、従来のポジションと給与待遇を維持する。
●会社が通勤バスを手配する。
会社の条件に対し、徐さんは新住所への移転を拒否し、出勤もしなくなりました。会社が出勤勧告を出しても、応じてくれませんでした。「会社の移転で、通勤時間は5時間もかかり、実質的に労働契約履行不能となり、会社側が労働契約を違法解除した」との理由で会社を訴え、経済補償金の支払を求めました。
徐さんの訴えに対し、労働仲裁も、一審二審判決も、「会社の違法解雇ではない」と判断しました。その理由は、「会社の住所移転は、会社の経営上の自由権利である。同一行政エリアにおける移転のため、労働者の給与水準、社会保障などの労働条件が変わらず、従業員への不利益がない。このため、労働者が会社側の違法解雇を訴えるには、理由が不十分である」
以上の判例は、会社が労働契約の解除を通知する前に、従業員側から提訴したもので、訴える理由にも欠陥があります。ただし、労働仲裁と裁判所の判断から、「ポジションや給与待遇など、従業員の利益が実質的な不利益を受けておらず、会社側の経営上必要であれば、労働契約を一部変更してもいい」との見方もわかります。深センだけでなく、上海でも、「従業員の勤務地、給与が変更していなければ、労働契約で契約しているポジションを変更することを認める」との判例があります。
会社が経営管理のために、合理的な範囲で労働契約を一部変更することができるとの見方が強くなってきましたが、明確な限界度合いはありません。違法リスクを少しでも回避するために、労働契約を変更する際、以下の注意点を事前に確認し、準備しておいたほうがいいと考えられます。
●従業員に十分な説明や協議を実施されたか。
●労働契約の変更により、従業員に対する影響を補償する対策が講じられたか。
●給与待遇や福利厚生など、従業員に実質的な損害があったか。
●労働契約の変更は、侮辱的や、懲罰的な性質が伴うか。